「電子メールによる心理相談の試み」

小坂守孝

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(注)本稿を引用する場合は、文献欄に以下のように記載して下さい

小坂守孝(1997)電子メールによる心理相談の試み. 第22回コミュニティ心理学
シンポジウム発表資料(未公刊).

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(1) 出発点
近年のパソコン通信やインターネットなどの電子ネットワークの普及により、これ
までになかったコミュニケーションの方法が一般の人々にも徐々に浸透してきた。
その代表的なものが電子メールである。ここでは心理面に悩みを抱える人に対する
新しい援助資源としての電子メールの活用の試みについて、筆者の実践報告を行う。

(2) 電子メール相談の特徴
電子メールという方法で行う相談は、面接や電話による方法とは様々な点で異なる
と考えられる。以下に特徴を挙げることとする。
まず第1に、相談者は相談機関に足を運ぶ必要がない。ただ、それだけに相談する
側・相談を受ける側共に互いの視覚的情報が得られず、特に相談を受ける側として
は大きなハンデになる可能性がある。第2に、パソコン等の通信機器があればメッ
セージを即座にいつでも送信できる。ただしパソコン購入・プロバイダー加入など
初期投資にある程度の金額がかかり、アクセスポイントが近くにない場合には市外
通話など通信コストも余計にかかる。第3に、互いのメッセージはほぼ即時に相手
に届き、メッセージを受け取った相手は都合のよいときにメッセージを読める。た
だし、面接や電話における即時的なやりとりは困難である。そして週1回一定の時
間を設けるといった、時間面において治療構造をつくるのは困難である。
このように電子メールは距離性・時間性を超えたメディアであると言える。それだ
けに、沈黙等の時間の経過を生かすことや、一定の時間をクライエントに提供する
という意味を持つような面接・電話相談と同じ役割を取ることは困難かも知れない。
しかし、悩んでいても様々な理由で相談機関に訪れることや電話することさえも困
難な人にとっては、有用な援助資源となる可能性がある。
このように、電子メール相談は面接相談になりかわるようなものではなく、あくま
で補助的な役割や、可能ならば面接相談を行える相談機関に紹介するような役割を
取るものと思われる。
また、文章を書くということが心理療法における書記的方法として、書くことその
ものの効果があるということも考えられる(cf. 福島・阿部,1995)。
そして、電子メールというのは匿名のようで匿名でないという面がある。メールア
ドレスは同じものは世界に一つとなく、相手がどこにいるのかということは関係な
くメッセージのやりとりができるのである。

(3)実績
筆者は財団法人日本臨床心理士資格認定協会によって認定される「臨床心理士」の
取得をきっかけに、1995年12月初頭に心理相談用のホームページ「心理援助サービ
ス」(http://www.bekkoame.or.jp/~mkosaka/pss.html)を開設した。このホームペ
ージでは心の悩みを持つ本人と、そのような人を抱える家族や周囲の人についての
悩みを受け付けることとした。また、相手がすぐにアドバイスや意見を求めること
も予想されたので、電子メールのやりとりを通して「共に考える」ということを強
調してみた。料金については「当面無料」とした。
1997年2月末までに56人からのべ146通のメールが寄せられた。図1にあるように、
開設当初は月に1通来るか来ないか程度であったが、検索用のホームページ「ヤフ
ー(Yahoo)」に登録した後より徐々に増え始め、9月頃から月当り2桁台になった。
一部の雑誌や新聞でも取り上げられたのがきっかけになったのか、その後月当り20
通から30通の相談が寄せられるようになった。
(図1)

相談者の男女比(図2)は男性が全体の6割を占めた。また、年代ごとの特徴
(図3)としては、20代が一番多く、次いで30代・40代の順になっている。20代は
それ以上の年代よりも電子メディアの利用率は高いという傾向(cf宮田,1993)に準
じた数字となっていると思われる。
(図2)

(図3)

相談者の種別(本人・家族・友人知人)、主訴分類、そして相談回数については図4
に示した。本稿では、主訴を以下のように分類した:(a)精神医学的問題(妄想・幻
聴・分裂病者のケア、など)、(b)身体症状(過換気症候群・職場のストレスでの頭
痛や胃の痛み、など)、(c)行動(過食嘔吐・外に出られない)、(d)性格(対人恐怖
・視線恐怖・自分のことが嫌い、など)、(e)対人関係(離婚を迫られる・組織の中
でうまくいかない、など)、(f)人生目標(大学生活にゆきづまる・人生とは何か、
など)、(g)その他(臨床心理士になるには、など)。相談者の種別としては、本人
が全体の7割強を占めていた。また、相談内容としては本人自身の性格に関するもの
が一番多かった。相談回数としては、4割近くが1回のみの相談であったが、本人に
ついては継続相談を実施したものも多かった。
(図4)

メールの発信時間(図5)については、4分の1近くが夜中の時間帯に発信されてい
る。夜中の時間に悩み事を書くことで気持ちを整理できる場合もあるかも知れない
が、今回は結論を出すことはできない。
当初、電子メールという方法は遠隔地からの心理相談に効力を発揮すると考え、メー
ルを寄せた人に都道府県を尋ねた(図6)が、東京都が他の都道府県よりも圧倒的に
多かった。本サービスが実は関東地方に根づいたサービスという性格を帯びているの
かも知れない。
(図5)


(図6-1)


(図6-2)


寄せられたメールへの対応としては、主に(1)受容、(2)質問・確認、(3)コンサルテ
ーション、の3つに分かれる。まず当方が相手の悩みを受容しているということが伝
わるような返答をするように配慮している。次に、メールに書かれていることについ
て、相手がそれをどのような気持ちで書いているのかをより理解するために、幾つか
の質問や確認をすることが多い。この質問と確認はほとんどの回答で行われている。
これらの内容は相談に答える者の理論的立場によって微妙に異なるかも知れない。
また、本人以外からのメールの場合や、本人でも相談の内容によっては、あえて当人
の心の問題までは扱わずにコンサルテーション的対応をすることがある。

(4)今後の課題
電子メールによる心理相談をコミュニティ心理学的実践活動として位置づけようと考
える場合、幾つかの課題があると思われる。まず、何らかの相談機関が必要と思われ
る人に対して、責任を持って紹介できる所をより増やす必要がある。特に、筆者が活
動している関東地方以外については、対応に苦慮しているところである。
また筆者の場合、現在は週のほとんどの時間を他機関での仕事に奪われるため、相談
に対する返事がどうしても遅れてしまう。即座に相手に届くという電子メールの長所
を生かし切れていないのが現状である。
そして、電子メールによる心理相談の効果測定についても、今後の研究が必要となる
ところである。
インターネットそのものの問題もあると思われる。まず冒頭に述べた通り、インター
ネットに接続するにはパソコン購入・プロバイダー加入などかなりの額の初期投資を
必要とする。また、インターネットを使うための設定がまだ容易とは言えないので、
ある特定の人しか利用できない。
更に、電子メールは盗み読みされる可能性も否定できない。心理相談は特にプライバ
シーを守らねばならないものであるから、早急に対策を練る必要があると思われる。

(参考文献)
福島脩美・阿部吉身(1995)カウンセリングと心理療法における書記的方法. カウン
セリング研究,28(2),212-225.
宮田加久子(1993)電子メディア社会:新しいコミュニケーション環境の社会心理. 
誠信書房. 

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