「電子メールによる「心理援助サービス」の実践的研究」
(title: Practical study in e-mail consultation)
(注1)本論文を引用する際には、文献欄にて以下のように引用して下さい:
小坂守孝(1997)電子メールによる『心理援助サービス』の実践的研究. コミュニティ心理学研究,1(2),187-198.
Please cite this article as: Kosaka,M. (1997) Practical study in email consultation. Japanese Journal of Community Psychology,1(2),187-198 (Written in Japanese).
(注2)ホームページ掲載のため、本論文中における事例に関する一部の記述ならびに図表は割愛しました。ご了承ください。
A part of case report is omitted from this web.
(SUMMARY)
The purpose of this study was to introduce an attempt for electronic mail (e-mail) consultation. E-mail consultation may be applicable for people who are afraid of visiting counseling center, or who can't visit it for some reasons.
The author set up home page of e-mail consultation service for clients and their family, or friends. This service aimed to "think together" for solving their problem. Through the e-mail communication, the author attempted to clarify how clients were feeling.
56 people sent e-mail and their problems were divided in 6 categories:(a) psychiatric issues (paranoid, care of schizophrenic patient, etc.), (b)psychosomatic problems (headache, pain in stomach, etc.), (c) problems on personality and behavior (phobia, withdrawal, etc.), (d) interpersonal relationship (being divorced, trouble in organization, etc.), (e)life goals (being tired of college life, wondering what life is, etc.), (f) others (how to be clinical psychologist, etc.). Half of them has changed their feelings with e-mail consultation.
Usage of e-mail consultation, some effects, and issue of introducing to other facilities were discussed here.
I 問題
(1)電子メールの普及
コミュニティ心理学の分野において、これまで相談者が生活している環境の中で利用しやすい資源としては主に電話相談(末松,1995)が注目されてきた。だが1990年代に入り、インターネットに代表されるようなコンピュータネットワークが一般の人々にも徐々に普及し始め、パーソナルコンピュータ(以下パソコン)等の通信機器さえあれば電子メールの利用や個人ホームページの作成も比較的容易にできるようになってきた。電子メールとは、パソコン通信あるいはインターネットで、個人から別の個人にあてて電子的に送るメッセージである(荻野,1996)。1997年6月現在、日本におけるインターネット人口は約 572万人と推測されており、インターネットに接続している人の76.7%が電子メールを使用している(日本インターネット協会,1997)。このように、電子メールも電話などと並ぶコミュニケーションツールの一つとなってきている。
荻野(1996)によると、電子メールには、1)受信者が、物理的に世界のどこにいても同じアドレスで受け取れる、2)同時に多数の人に発信することができる、3)受け取ったものを第三者などに見せたり、加工したりすることが簡単にできる、という長所と、1)電子メール用の機器(パソコン)が高価である、2)たまに事故で消えたり、正確に伝わらなかったりする、3)画像・プログラム・音声などが送りにくく、基本的に扱えるのはJISで規定されている文字だけである、という短所がある。
(2)手紙・電話と電子メール
電子メールは読んで字のごとく「電子の手紙」である。手紙は特別な機器を用意しなくても誰でも利用できる手軽なメディアであり、従来から面接相談の補助的な役割として利用されてきた。Sloman & Pipitone(1991)によると、手紙を相談に用いる場合の利点としては、1)空想や夢と同様に分析素材となる、2)話すよりも書く方が時間がかかるが、それだけ自分の考えを整理したり、見直して書き直せる、3)受取人も読む時間を十分とれ、返事の前に時間をおくことができる、4)手紙を書く努力は何か建設的なことをしていると感じることによって、不安を抑え、無力感や希望のなさを減少する、5)話すよりも書く方が自己表現できる人もいる、などの点があり、欠点としては、1)治療者とクライエントとの相互作用から孤独な活動へと力点が移る恐れがある、2)知的活動のため、感情の関与が薄まる恐れがある、などの点がある。
以上の特徴はそのまま電子メール相談における利点と欠点に当てはまると思われる。ただ、手紙では手書き文字でのやりとりが中心となるが、電子メールでやりとりできるのは原則として活字のみである。吉村(1993)は手書き文字とワープロで書かれた活字が読む人に与える影響についての調査結果より、手書き文字は自分と相手の繋がりをいっそう強く感じさせてくれるのに対して、活字はフォーマルで形式的な印象を与える、と考察している。手紙の場合は筆跡・便せんの種類・切手の絵柄など、文字情報以外にも電子メールより多くの情報が相手に伝わると考えられ、相談を受ける側にしても相手の心の状態に関する手がかりが得やすいと思われる。
また、電子メールは一度パソコン等を用意して設定すれば手紙のように切手を買いに行ったり郵便ポストまで手紙を出しに行く手間をかけることなく、自分のパソコン等からメッセージを送ることができる。つまり電子メールは、キーボードに慣れている人々にとっては手紙よりも手軽にかつ迅速に相手にメッセージを伝達する手段であると思われる。さらに、手紙の場合は投函してから相手に届くのに数日を要するが、電子メールならば送信した直後または数時間以内に相手のホストコンピュータに届く。これらの特徴は相談手段としての利用のされ方の違いにも影響があると思われる。このような電子メールの伝達の速さと手軽さは、むしろ電話と共通している部分であろう。
以上より電子メールは、電話の「手軽さ」と手紙の「じっくり考えることができる」という2つの側面を兼ね備えていると考えられる。
(3)相談方法としての電子メール
福島・阿部(1995)によると、カウンセリングと心理療法における書記的方法は、全体として自己理解や問題の改善に一定の貢献をしている。つまり電子メールにおいても書くことそのものに効果があるという可能性が考えられる。尾邑(1997)(注1)は被験者に依頼する形で電子メールを用いたカウンセリングの試行を行った結果、メール交換の回数が進むにつれて被験者のメールの内容は深い内的体験過程を示すようになり、「今まで気づかなかった自分自身の感情や体験が新しく浮かび上がり、把握され、自己の一部として統合される」という段階に達するものもあった。つまり、電子メールには単なるメッセージの伝達だけではなく、相手に対して何らかの態度変化をもたらすことのできるメディアであり、援助手段として活用できる可能性があると思われる。
電子メールは他の通信メディアと違い、厳密な意味での匿名ではない。それゆえに相談者自身に責任が生じ、電話相談で問題となるような無言電話(近藤・山本,1993)のような問題は少なくなるのではないかと思われる。
しかし、電子メールでは表情やジェスチャーなどの視覚的要素だけでなく、電話では機能する声質・抑揚・付随音などのパラリンガルな要素も利用できない(橋元,1996)。このような非言語的メッセージの欠落について岡田(1996)は「誤解を増幅されやすい環境で、十分な相談活動を行うのは並み大抵なことではない」と述べている。
また、電子メールでは同時的なコミュニケーションは困難であるため、緊急の危機介入には向かないと思われ、沈黙等の時間の経過を相談に生かすこともできない。そして、面接や一部の電話相談のように、週1回あたり一定の時間を設けるなど時間面において治療構造をつくることは困難と思われる。
電子メールは距離と時間を超えた独特のメディアであると言える。それだけに、面接や電話相談と同じ役割を取ることは困難かも知れない。しかし、悩んでいても様々な理由で相談機関に訪れることや電話することさえも困難な人にとっては、有用な援助資源となる可能性があると思われる。ただし、電子メール相談は面接相談になりかわるようなものではなく、あくまで補助的な役割や、可能ならば面接相談を行える相談機関に紹介するような役割を取るものと思われる。
1996年5月の時点で、アメリカ合衆国では既に多くの心理学者によって電子メール相談やホームページを用いた情報提供が行われている(Hannon,1996)。日本でも1995年前後より、筆者を含めた心理学者や精神科医によってインターネット上に心理相談を受け付けるホームページが開設されている(例えば安田,1997)。しかし、現時点では詳細な実践報告例はまだ見られていない。
本研究では筆者の実践をもとに、電子メール相談の今後の可能性について検討を加えることとする。なお今回の検討対象は、開設時の1995年12月から1997年6月末日までに相談が終了または中断した人とした。
II 方法
(1)ホームページ開設
メディアのデジタル化による利便性(Negroponte,1995)は心理相談の過程にも何らかの形で適用可能と考えた筆者は、1995年現在インターネット上で一般にも普及しつつあった電子メールとホームページを利用し、心理相談の過程のデジタル化の一試みとして、ホームページによって相談を募集する電子メール相談を実施することとした。ホームページ開設の際には、心理相談を実施するだけの資質を筆者が兼ね備えているということを何らかの形で利用者に証明する必要があると思われた。そこで筆者は、財団法人日本臨床心理士資格認定協会によって認定される「臨床心理士」の資格取得をきっかけとして、1995年12月初頭、インターネット上に電子メール相談用のホームページ「心理援助サービス」を開設した(表1)。
このホームページでは心の悩みを持つ本人と、そのような人を抱える家族や周囲の人についての悩みを受け付けることとした。また、相手がすぐにアドバイスや意見を求めることも予想されたので、電子メールのやりとりを通して「共に考える」ということを明記した。料金については「当面無料」とした。このホームページは、筆者についての簡単なプロフィールが見られるページにもリンクできるようになっている。なお、日本語を使用しない人に対して相談活動を行うことは筆者の言語能力では困難と考え、ホームページ上の使用言語は日本語のみとした。また、ホームページ開設直後には検索用ホームページへの登録も行った。
ホームページ開設当初、相談者からの電子メールは月に1通程度であったが、その後一部の新聞雑誌にも取り上げられたことも手伝い、徐々に件数が増えてきた。
(2)相談者への返事について
相談者から寄せられた電子メールに対しては、相手の発言の受容と相手の気持ちの明確化に焦点をあて、相手の気持ちや意図を明らかにするために、文章の意味内容が不明確なものについては随時質問を行った。そして筆者の質問への回答やその時の気持ちについての返事が相談者から来るとそれを受け、また相手の発言を受容し、気持ちを明確化するというやりとりが繰り返された。
自分のことで相談を求める相手には、質問への回答の他にも、その時々で新たに感じたことについても書いてもらうようにした。また、家族や友人知人についての相談である場合には、主に当人の症状や現実検討能力、対人関係上の特徴などが明らかになるように随時質問を行い、当人の状態に応じて専門家への訪問を促したり、具体的に紹介を求められた場合には筆者から相談室やクリニックの連絡先を伝えた。
単に情報を求めている人にも、その人がなぜその情報を必要としているかについて尋ね、場合によっては対応の方法について再考するよう促した。
III 結果
(1)相談者の人数・職業分類・相談者種別
1995年12月から1997年6月末日までに相談が終了または中断した人は56人(男性35人、女性21人)で、合計155通が寄せられた。相談者の年代ごとの性別(表2)については、相談者のほとんどが20代と30代であり、いずれの年代も女性より男性の方が多かった。職業(表3)については大半が学生(専門学校・大学・大学院など)と会社員で占められていた。相談者の居住地については、比較的遠隔地からの相談もあるものの、約3分の1にあたる19人が東京都であった。
相談者の種別(本人・家族・友人知人)と継続回数については表4に示した。本人が全体の7割強を占めていた。相談回数については、最多回数は8回で全相談者の4割近くが1回のみの相談であったが、本人については7割以上が2回以上の継続相談を実施していた。
(2)主訴分類
相談者から寄せられた電子メールの内容にもとづき、本研究では主訴を以下のように分類した:(a)精神医学的問題(妄想・幻覚状態・分裂病者のケア、など)、(b)心身症状(過換気症候群・職場ストレスによる頭痛や胃の痛み、など)、(c)性格・行動上の問題(対人恐怖・視線恐怖・引きこもり、など)、(d)対人関係(離婚を迫られる・組織の中でうまくいかない、など)、(e)人生目標(大学生活にゆきづまる・人生とは何か、など)、(f)その他(カウンセラーになるための方法・心理テストに関する質問、など)。主訴分類別の人数は、精神医学的問題が5人、心身症状が4人、性格・行動上の問題が16人、対人関係が21人、人生目標が6人、その他が4人であり、対人関係に次いで本人自身の性格・行動上の問題についての相談が多かった。
(3)相談結果について
本研究では相談の結果について以下のように分類した:(a)電子メール交換を通して相談者に変化が見られた後に、相談者の方から相談の終了が示唆され、筆者もそれに合意したもの(合意の上終結)、(b)相談者に変化が見られた上での中断(変化あり中断)、(c)相談者に変化が見られた後、筆者が情報提供した後の中断(変化・情報提供)、(d)筆者が情報提供し、相談者に変化が見られないままの中断(情報提供のみ)、そして(e)相談者に変化が見られず、情報提供の機会もないままの中断(変化なし中断)、である。ただし、ここで言う「変化」とは、電子メールのやりとりの中で、相談者が事態に対してそれまでとは違う捉え方ができるようになったと思われる表現があったことを示している。また「情報提供」とは、相談機関の訪問を示唆したり、臨床心理学上の知識を相談者に伝えたりすることであり、筆者からのアドバイスも含んでいる。
主訴分類別の相談結果・相談者種別・継続回数については表5に示す。「合意の上の終結」「変化ある中断」「変化・情報提供後の中断」を合わせると全相談者の約半分が電子メール相談をきっかけにして変化が起っている。また、精神医学的問題と身体症状については「合意の上の終結」は見られなかった。相談者種別に関しては、精神医学的問題では5人のうち4人が、そして性格については16人中10人が本人以外からの相談であった。また、継続回数に関しては、性格・行動、対人関係、人生目標の問題について継続相談が多く見られた。
表6には継続回数別の相談結果・相談者種別を示した。相談結果に関しては、全相談者の約4分の1に対して情報提供のみを行った。相談者種別については、本人からの相談に比べ、家族や友人知人からの相談は継続回数が少ない傾向にあった。ただし、本人以外でも恋人や配偶者に関する相談では継続回数が多くなるものも見られた(表7ならびに事例記述は割愛)。
IV 考察
(1)ホームページの内容について
筆者のホームページにおいて相談者にあらかじめ制限事項として伝えていたことは、1)1回あたりの文章の長さ、2)送信の頻度、3)トラブルの際の対処方法、4)電子メール以外の相談方法について、の4点であったが、相談内容としては「本人や家族の心の悩み」としか記載しなかった。相談内容にはいたずらに制限を加えない方が、電子メール相談を利用する人がどのようなニーズを持っているのかが明らかになるのではないかと考えたからである。
しかし、既に述べた電子メールでの非言語情報の欠落を補うために、様々な場合についてのより詳細な説明を行う必要があると思われる。それが結局は電子メール相談において援助構造をつくることにもつながると思われる。
(2)電子メール相談の利用のされ方について
電子メール相談を利用する層としては、女性よりも男性が、そして年代としては20代と30代に集中した。これは電子メディアの利用に関する先行研究(宮田,1993)と同様の結果であった。これより、メディア・リテラシー(川上,1996)の程度がそのまま電子メール相談の利用の程度にも影響すると思われる。ただし性別に関しては、ホームページを見れば筆者が男性であることがわかるために、同性のカウンセラーに相談したいと思う女性から敬遠された可能性もあると思われる。
また、相談の回数に関しては予想以上に継続相談が多かった。電話相談では「かけ手の主導性」ということが強調されるが、電子メールの場合には筆者の側からもメッセージを送信できるということ、すなわち相談員側にも主導性があるということが相談の継続につながっていると思われる。
相談者の居住地については予想していたよりも地方からの相談が少なかった。相談機関の少ない地方の場合には電子メール相談が有効ではないかと思われるが、インターネットの接続先が居住地になかったり、あっても回線が混み合っているなど接続事情が悪い場合、電子メール相談が利用されにくい可能性もあると思われる。
また、筆者の活動している地域が首都圏ということが、東京都からの相談の多さと関係あるかも知れない。利用者にとっては「地域の相談機関」として利用している可能性もあるが、これについては各地方において同様の活動をしている機関との比較を待たねばならない。
(3)電子メール相談実践上の問題点
実際に電子メール相談を行った上で問題と思われるのは主に以下の3点である。
(a) 相談者による誤解
電子メールにおいては、互いに伝えようとすることがうまく伝わらないという可能性がある。この点については、相談者に対する筆者からの返事において出来るだけ多くの言葉を用いて説明することによって回避できたように思われる。まれに筆者からの返事の内容が誤解されることがあったが、それは次の回の相談者からの返事によって明らかになり、次の筆者からの返事において誤解を解くための対策を講ずることができた。
(b) 質問と先走り
寄せられた相談への筆者の基本的な対応は「受容」「明確化」「質問」であった。特に相談者についての非言語情報がないため、それを補うための質問が多くなってしまったが、そうすると相談者が自分の問題を見つめることの邪魔をする恐れがあると思われる。
また、相談者からの非言語情報のなさを補おうと、明確化を越えて筆者の先走り的な解釈になった対応もあった(例:「もしかしたら・・・ではないかと思いました」)。この先走りが相談者の実感とずれてしまった場合の影響が懸念される。そして相談者の心の状態等を捉えられた場合でも、場合によっては相談者が自分で考えることを放棄してしまう恐れがあり、慎重に対応する必要があると思われる。
(c) 返事に要する時間
相談を進めていくうちに相談者からの電子メールが増えてしまい、多い時ではひと月に30通に達することがあった。限られた情報の中で、相談者がどのような意図をもって文章を書いているのかを検討してから返事を書くことになったため、1通当りに筆者が要した時間は大体20分から1時間になった。また、実際には他の仕事の合間に返事を書くことは難しく、週末などのまとまった時間を要したため、結果的に返事を送信するまでに1週間程度かかるようになってしまった。相手にメッセージが即座に届くという電子メールの特性はここでは十分に生かし切れなかったと思われる。
(4)電子メール相談の効果について
今回は相談者に対するフォローアップを行っていないので、電子メール相談が相談者にとって本当に役に立ったかどうかということに結論を出すのは尚早である。しかし、全相談者の半数が電子メールのやりとりの中でそれまでのものの見方や考え方に変化を見せていた。特に進路相談など、相談者の自己決定への援助には有効と思われる。
それに対して、全相談者の約4分の1が、電子メール相談において変化が見られないまま中断となってしまった。中には6回〜8回と継続した相談もあった。しかしその相談者達は電子メール相談の存在については一様に好意的であった。この人達にとって実際にはどれほど電子メール相談が役に立ったかは不明であるが、相談機関に訪れることに強い抵抗を示す人に対する援助方法の一つとして電子メール相談には可能性があると思われる。
また、約4割の相談者が情報だけを必要としていた人達であったと考えられる。筆者が開設したホームページでは、心理療法やカウンセリングに関するQ&Aのようなものは作成せずに、質問に随時回答する方式をとっていたが、実際には類似した複数の質問も寄せられていた。利用者のニーズにより応えるものにするためには、電子メールによる相談とホームページ上での情報提供の両面で相談者に対応する必要があると思われる。
(5)他機関の紹介について
筆者の場合、相談機関の紹介を希望する人に対しては、複数の相談機関の連絡先を知らせ、相談者本人に直接問い合わせをしてもらうようにしていた。だが、相談者が過去あるいは現在にカウンセリングに対して不信感を持っている場合には紹介が困難であった。また、筆者から特定の治療機関を紹介した後に実際に相談機関へ尋ねてみたが相性が合わなかったという人もいた。
これは電子メール相談が、相談機関が提供するサービスの一つとして行われる場合と、筆者も含め、特定の相談機関によらずに個人が電子メール相談のみを行う場合とで若干事情が異なると思われる。前者の場合、相談機関でホームページを開設し、来談の受付を電子メールで行う(岡田,1996)ということや、地理的に当該相談機関に通える人に対して最初は電子メールで相談を継続し、必要に応じて来所してもらうという可能性もある。
だが後者の場合には、相談を実施する者が連携先の相談機関や病院を全国レベルで把握する必要があると思われる。また、顔も声も知らない相談者に対してこちらがどれだけ責任を負うことができるのかということについても考えていく必要があると思われる。
(6)悪戯メールについて
これまで筆者のところには、明らかに悪戯と分かるメールはまだ1通も来ていない。これは電子メールが電話と違い完全に匿名ではないからだと思われる。
しかし、作話を伴うメールがあったとしても、その内容が首尾一貫し了解できるものであれば、それが悪戯であることが判断できない恐れがある。悪戯メールを書く人は、他人に対して不信感を持っているなどして、人に対して悪戯をせずにはいられない何らかの心のありようがあると考えられるので、基本的にはその内容を受け止めることが必要と思われる。その上で有田(1992)が指摘するように、「話の内容が少しずつ矛盾して、くい違いを露呈してくる」「問題解決に向けて相談を展開していこうとすると、それには応えず、中断してしまう」という点について注意しながら対応する必要があると思われる。
(7)コミュニティ心理学における電子メール相談の位置づけ
相談者は相談機関に足を運ぶ必要がないという利点に加え、電話ほど迅速ではないが事実上「お話し中」がなく、手紙よりはるかに早くメッセージを伝達できる電子メールは、コミュニティ心理学の分野における多様な援助サービスの補助的手段として有効であると思われる。
現時点で最も有用な手段と考えられるのは、相談機関の紹介といった情報提供である。また、地域精神保健における第二次予防(利用しやすいサービスプログラムの設置による早期の問題解決)や地域のキーパーソンへのコンサルテーション(Caplan,1964)にも貢献するものと思われる。
ただ利用者側にとっては、インターネット接続業者との契約など電子メールを使えるようにするための基本的な設定も、1997年の時点ではまだ容易とは言えない。この点は電子メールによる相談がどれだけ多くの人にとって利用しやすいものになるかということに関わる問題である。また、相談に対応する側としては、相談内容によっては返事を書くのにある程度時間が必要であり、面接相談の合間に電子メール相談を行うことは困難と思われる。
近年では企業や大学などの組織にコンピューター・ネットワークがはりめぐらされるようになり、今後は組織内において電子メールを用いた相談活動が行われる可能性もある。だが、膨大な数の電子メールが寄せられてしまうと返事が追いつかなくなったり、メールサーバー自体がパンクしてしまう可能性がある。
このように、既存の相談機関における安易な電子メール相談の導入は、従来の相談機能に支障をきたす恐れがあるので、導入に際しては慎重に検討すべきである。もしも利用者に短時間で対応できるようなシステムを作ろうとするならば、新たに電子メール相談用の人的体制を整えることが必要であろう。また、実際に電子メール相談を行う際には、電子メール1通当りの最大行数や、電子メール相談を受け付けるクライエントの数など、何らかの制限を設ける必要があると思われる。
IV おわりに
パソコン通信、インターネットなどの電子ネットワークは我々に新しいコミュニケーションの方法をもたらした一方で、インターネット中毒(OReilly,1996)など、精神保健上の様々な課題も生み出している。しかし、電話・ファックス・手紙を含め、どのメディアも同様の性質を抱えていると思われる。コミュニティ心理学的な立場からコミュニティに生活する人々を援助していく場合には、面接相談以外のさまざまな方法についても、長所短所を的確に把握した上で、それらを有機的かつ有効に活用していく必要がある。
引用文献
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福島脩美・阿部吉身 1995 カウンセリングと心理療法における書記的方法 『カウンセリング研究』28,212-225
Hannon,K. 1996 Upset? Try cybertherapy. U.S. News & World Report,May 13,81-83
橋元良明 1996 インターネットとパソコン通信はどう使われているか−電子メール利用を中心として− 『日本語学』15:12,91-98
川上善郎 1996 メディアリテラシーが作り出す「持てる者」と「持たざる者」 川浦康至・川上善郎・宮田加久子ほか『メディアサイコロジー−メディア時代の心理学』15-44 富士通ブックス
近藤泰雄・山本眞樹 1993 「無言電話」−実態と考察− 『電話相談研究』5,20-25
宮田加久子 1993 電子メディア社会−新しいコミュニケーション環境の社会心理− 誠信書房
Negroponte,N. 1995 Being digital. London: Hodder and Stoughton. (西 和彦(監訳) 1995 ビーイング・デジタル:ビットの時代. アスキー出版局)
日本インターネット協会 1997 インターネット白書97 インプレス
荻野綱男 1996 電子メールの光と影 『日本語学』15:12,4-11
岡田努 1992 コンピュータにおけるコミュニケーション 『心理臨床』 5(2),95-99
岡田努 1996 インターネットについて 『心理臨床』9(3),201-203
尾邑佳恵 1997 E-mailによるカウンセリングの試行. 東京学芸大学教育学部1996年度卒業論文(未公刊)
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末松渉 1995 電話相談活動 山本和郎・原裕視・箕口雅博ほか(編)『臨床・コミュニティ心理学−臨床心理学的地域援助の基礎知識−』 196-197 ミネルヴァ書房
安田究 1997 精神科医とインターネット−個人ホームページの運営を通じて− 『こころの臨床アラカルト』16(1),25-30
吉村英 1993 手書きとワープロのあいだ 『現代のエスプリ』No.306(1993年1月号),170-179
(注1)当該論文の内容については尾邑氏のホームページ(http://www.sainet.or.jp/~omu/co/email.html(1997年9月26日現在))に掲載されているものを参照した。