(注)本文を引用する際には、文献欄に以下の内容を記載して下さい。
小坂守孝(2002)電子メールによる相談活動の時代変遷. 現代のエスプリ,418,58-66.(2002年5月,至文堂)


電子メールによる相談活動の時代変遷

小坂守孝

一 はじめに

電子メールはインターネット接続料金の値下げや携帯端末の発達等によりこれまで以上に手軽に用いられるメディアとなり、今後も相談の一手段として浸透することが予想される。本稿では電子メールによるこれまでの相談活動について、まず海外での二〜三の実践を紹介し、次いで日本での実践を幾つかの節目ごとに紹介する。筆者のサイトを含め現在電子メール相談を行っていないサイトもあるので注意されたい。

二 海外での電子メール相談

サンプソンら(1)によると一九九六年八月の時点で少なくとも二七五のサイトが「インターネット上でカウンセリングを行っている」という。

シャピロら(2)は一九九五年二月よりホームページ(World Wide Web:以下WWW)上に相談受付用サイト「シュリンク・リンク(Shrink-Link)」を立ち上げ、開始ひと月だけで四五〇名の有料ユーザーが登録されたという。そして、電子メール相談は通常の心理療法とは異なること、秘密保持が十分ではないこと、効果が十分に確認されていないことなどを主張し、以上の点についてあらかじめクライエントに提示する必要性を主張した。

ミッチェルら(3)は一九九五年九月より電子メール相談を受け付ける「セラピーオンライン(Therapy Online)」をパソコン通信を用いたローカルの電子掲示板で始めた。当時の参加者は二百名程度であったという。その後一九九六年五月からはWWWに移行し現在も相談活動を継続している。一九九八年七月にはクライエントに電子メールでインタビューを行い、クライエントが電子メール交換によって「救われた、自分の全物語が語れるようになった、感情を表現できるようになった、自分が成長した」と感じたことを報告している。

キングら(4)も、一九九六年十月より一九九七年四月までの間に電子メール相談の効果を調査する目的で被験者をWWW上で募り、有料相談を実施した。その結果、被験者の七五%以上が電子メール相談は役に立ったと感じ、約七〇%が費用に値すると答えた。また被験者によるカウンセラー評定は十点満点で平均六点であった。更に電子メール相談の利点と欠点として被験者の幾つかのコメントを掲載している。倫理面では、電子メール相談の利用者にはカウンセラーの身元・相談料金・支払方法・秘密保持に関する情報が知らされる必要がある、としている。更にキングら(5)は家族療法において、物理的に離れた家族メンバーのセッションへの応用も試みている。

三 日本の電子メール相談

日本でも一九九〇年代中頃より電子メール相談に関する実践報告が行われ始めた。その初期のものはパソコン通信ネットワークを用いたものであったが、徐々にインターネット上での実践も行われ始めた。

パソコン通信による電子メール相談

インターネットが普及する以前、電子メールはパソコン通信ネットワークの中で使用されていた。当時電子メールは同じネットワークの会員同士でしか送受信ができなかった(その後、特定の大手ネットワーク同士で送受信できるようになった)。

(6)は学生相談の事例において、面接以外の対応に商用パソコン通信の電子メールを用いた複数の事例を紹介している。そして電子メール相談にはそれまでの治療関係や治療空間や本人のプライベートな意識空間のありかたが大きく反映されていること、そして電子メール交換はあくまで補助的なものであり、一対一の面接場面をどう構成するかが大事、としている。

小原ら(7)は、大学内に設置する精神科を受診している学生のサポートのためにパソコン通信を利用し、有効な治療的関わりが出来た事例について報告している。

また萩原(8) も、学生相談における電子メディアにまつわる事例をもとに、対人関係に困難を持つ人の訓練プログラム開発の手がかりを得たことなどを報告し、電子メディアの利用がもたらす倫理・コミュニケーションの変化・心理的影響などの検討が課題であることを示唆している。

ここで報告された事例では、最初に対面での面接が行われた後に電子メール相談が導入されており、電子メール相談は相談方法の主体としてではなく、面接相談の補助的役割を果たしていたと思われる。

インターネットにおける電子メール相談

インターネットの出現によって、電子メール相談のありかたも多様になってきたと思われる。従来はまず面接相談ありきでその後電子メール相談を導入していたのが、WWWを相談窓口として利用できるようになったことで、クライエントとの関わりが最初から最後まで電子メールのみという場合も出てきた。面接相談も実施している機関では、電子メール相談から面接相談へ移行する事例もある。

(1)個人サイトでの電子メール相談

 一九九五〜一九九六年前後には、日本国内でもWWW上に相談窓口を設置し、電子メール相談を始める者が出てきた。当時はどちらかというと特定の機関よりは個人として開設している者が多かったようである。

筆者(9)は一九九五年十二月にWWW上に電子メール相談の窓口「心理援助サービス」を開設した。試行の意味をこめて無料とした。開設当初は月に一通程度であったが、検索用サイトへの掲載や、一部の新聞・雑誌への掲載も手伝い一年後には月に三〇通余りが寄せられるようになった。一九九七年六月末日に休止するまで日本全国より五五名、のべ一五五通の電子メールが寄せられた(10)

翌一九九六年九月、明石土山病院院長で精神科医の太田正幸氏もWWW上での相談受付を開始し、当初は無料で相談に応じていたが、相談件数が増えたため翌月より年会費という形で有料化した。(一九九七年一月十二日,東京新聞)。

一九九六年十月には奈良県立医科大学でも、精神医学講座教授の岸本年史氏を中心として電子メール相談が始まった。約二ヶ月の間に三十件近い相談が寄せられているという(一九九六年十二月四日,産経新聞)。

また、尾邑(11)は一九九六年十月〜十二月にかけて、卒業論文のための研究としてWWW上で募集した被験者に対して電子メール相談を実施した。そしてやりとりされた内容を体験過程スケールに基づいて分析し電子メール相談の効果について検証を行い、クライエントが予想したよりも深い体験過程の段階に達したことを報告している。

この他、一九九六年には安田(12)が匿名の一精神科医の立場から精神科医療を本音で語ることを目指し個人サイトを立ち上げ、その中で電子メールによる相談を受け付け始めた。種々雑多な相談が寄せられ、中には回答までに2週間を要するものもあったことを報告している。

(2)公的機関での電子メール相談の増加

 一九九八年までには、幾つかの公的機関でも電子メール相談を始めるところが出てきた。既に子育て相談(13)やいじめ相談(14)などでも電子メール相談が実施され始めていた。

 一九九七年四月からは林(15)が電子メールによる相談活動を試験的に行っている。

一九九七年五月、田村(16)は青少年健康センターで電子メールを用いた一対一の相談とメーリングリストを用いた自助グループ的なアプローチを始めた。書くことによるクライエント側の変化、特に自分の物語りを綴るという効果を指摘し、インターネット上のコミュニケーションに関する問題点も提示した。

また小林ら(17)も一九九七年より、所属する大学内の機関でそれまで行っていた教師のための電話相談にファックスと電子メール相談を併設した。電子メール相談はその後電話を上回る件数を数えるようになったという。更に小林は一九九八年より二年間、WWW上で不登校の子供とその親を対象とした電子メール相談システムを設置した(18)

(19)は、相談機関におけるメディアの利用について一九九八年十月から一九九九年一月まで調査を実施した結果、東京都多摩地区の四年制大学の十一%が、そして日本全国の産業・地域のカウンセラーのうち十四%が電子メール相談を実施していた。

(3)相談サイト・実践報告の増加

渋谷(20)によると、一九九九年には電子メール相談を実施する機関が二四件だったのが、二〇〇〇年には三二件、そして二〇〇一年八月現在には四六件に達している。また、自身の有料相談における実践をもとに、電子メール相談の方法としては、受容的態度・共感的態度に裏打ちされたソリューションアプローチが当面は主体になることを示唆し、非現実世界への対応方法、一方的な内容の初期に対するアプローチ方法、治療的効果の測定方法、情報提供のあり方などを課題として提示した。既に電子メール相談は相談の一手段として位置付けられており、電子メール相談がきっかけで面接相談に移行する事例があることも報告している。(21)

浅沼(22)は実験的方法で電子メール相談を利用する者の意識を探り、対面相談より電子メール相談を選んだ者は「対面場面への抵抗」や「時間的空間的自由度の高さ」をその理由として挙げていることなどを報告している。

西澤(23)は、個人開業での電子メール相談の実践を通じて、カウンセラー側の能力に関する問題点、電子メール相談から面接相談への移行に際する連続性の必要性などを示唆した。

このような実践報告だけでなく、専門家同士の議論の場も設置され始めた。二〇〇一年六月には臨床心理学の専門家を中心として、オンラインでの適正な相談活動を普及することなどを目的とする「日本オンラインカウンセリング協会」が設立された。

二〇〇一年九月には日本心理臨床学会で「インターネットを利用した心理的援助について」と題する自主シンポジウムが行われ、個人・産業・病院での電子メール相談の現状報告があったほか、フロアからも実践例の報告が多数あった。

 

四 変遷をふりかえって

このようにして、電子メールによる相談はここ数年の間に独自の相談方法として確立されてきていると思われる。以下、幾つかの課題について触れておきたい。

「メールカウンセリング」という用語

電子メール相談における倫理基準の議論の一つとして「電子メールの交換は心理療法・カウンセリングとは異なるもの」というものがあった。筆者が実践報告を掲載した当時「カウンセリング」という用語の使用にはクレームがつき、「電子メール相談」とした。だが最近は「メールカウンセリング」という用語も頻繁に用いられるようになった。「占い等と区別するため敢えてカウンセリングという用語を使った」という意見もある。用語の使われ方は時代と共に変わるものであり、この用語の定着も時間の問題かも知れない。だが実践の内容についてクライエントが誤解しないよう常に注意する必要がある。

カウンセラーの資質面

これまで論じられた倫理基準は基本的には全ての相談方法において守られるべきことである。電子メール相談は相談室を借りなくても実施可能であるだけに、既に西澤(23)の報告にあるように十分にトレーニングを受けていない者によって相談が実施された例もある。また、相手の表情や声の調子などの非言語情報が欠如した電子メールでは、クライエントの状態の変化が十分につかみ切れない場合も多く、クライエントからの電子メールの内容判断に際してはカウンセラー側の臨床体験の蓄積が必要な場合も多いのではないかと思われる。電子メール相談を実施する者は少なくとも面接相談の訓練を重ね、十分な専門性を兼ね備えていることが必要ではないだろうか。

電子メール相談の効果

電子メール相談には、他の相談方法には見られない、電子メールなりの効果があると考えられる。この点についてはクライエントの生の声を紹介することによってクリアしようとする研究も幾つか見られた。

カウンセラー側にも電子メール相談ならではの工夫があると思われる。例えば筆者の場合「やや先取りの返答」をよく使っていた。これは相手の実感とずれた答えをしてしまいそうな場合に、「あるいは○○とお感じかも知れませんね」など、相手が感じそうなことを予想し、返答につけ加えておくというものである。渋谷(20)もこれに類似すると思われることを「言い訳をつける」と表現していたのは興味深い。

効果に関してある一定の結論に達するためには、今後も事例研究の積み重ねが必要ではないだろうか。

五 結びにかえて

 筆者が電子メール相談を実施していた時、文字数などを制限していたにもかかわらず、当初の予想以上に一通あたりの電子メールへの返答に時間がかかったことを記憶している。その度に一通の電子メールの重みを痛感したものである。

 筆者がかねてから懸念していた組織への導入も増えてきた。電子メール相談の浸透という点では喜ばしいことではあるが、人的資源の確保などの問題点がどのようにクリアされるのか今後も注意する必要がある。クライエントにとっては手軽な相談方法であっても、我々カウンセラーにとっては決して手軽とは言えないことを、あらためて肝に命じておくべきではないかと思われる。

本号がきっかけになり、今後も更に専門家同士が建設的な意見交換を行い、より有益な電子メール相談が実践されることを期待したい。

(引用文献)

(1)Sampson, J. P.Jr., Kolodinsky, R. W., & Greeno, B. P. Counseling on the information highway: Future possibilities and potential problems. Journal of Counseling and Development, 75, 203-212,1997

(2)Shapiro,D.E.,& Schulman,C.E. Ethical and legal issues in E-mail therapy. Ethics & Behavior,6,107-124,1996

(3)Mitchell,D.L.,& Murphy,L.J. Confronting the challenges of therapy online: A pilot project. Proceedings of the Seventh National and Fifth International Conference on Information Technology and Community Health; Victoria,Canada,1998

(4)King,S.A,& Moreggi,D. Internet therapy and self help groups the pros and cons. In J.Gackenbach(Ed.),Psychology and the Internet: Intrapersonal, Interpersonal and Transpersonal Implications(pp. 77-109). San Diego,CA: Academic Press,1998

(5)King,S.A.,Poulos,S.T.,& Engi,S. Using the internet to assist family therapy. British Journal of Guidance and Counseling,26,43-52,1998

(6)湊 博昭 電子メールによる治療的関与の試み. 16回大学精神衛生研究会報告書 四七−四九 一九九五

(7)小原依子、高橋京子、小澤かおり、近藤志帆、松本和雄、小福秀子、久保田稔 精神科治療におけるパソコン通信利用の試み. 35回全国大学保健管理研究集会報告書 二七七−二八〇 一九九七

(8)萩原公世 学生相談とメディア 日本カウンセリング学会第29回大会 一九九六

(9)小坂守孝 電子メールにおける『心理援助サービス』の実践的研究 コミュニティ心理学研究 1(2) 一八七−一九八 一九九七

10)小坂守孝 相談する−心の問題へのアプローチ 現代のエスプリ 370 一八八−一九六  一九九八

11)尾邑佳恵 E−mailによるカウンセリングの試行 東京学芸大学教育学部一九九六年度卒業論文(未公刊)一九九七

12)安田究 精神科医とインターネット:個人ホームページの運営を通じて こころの臨床アラカルト 16(1) 二五−三〇 一九九七

13)小林正夫、深田昭三、松橋有子、田中義人、金田鈴江、井上勝、鳥光美緒子、山崎晃、清水凡生 インターネットを通した「子育て相談」−開設1年の経験から 幼年教育研究年報 20 一−八 一九九八

14)山下修一、芳賀高洋 インターネットを用いた「いじめ相談」の諸問題 千葉大学教育実践研究 6 八一−八九 一九九九

15)林 潔 電子メールによるカウンセリングおよび援助(helping)活動について. 白梅学園短期大学情報教育研究 1 三〇−三六 一九九八

16)田村 毅 インターネット・カウンセリング 現代のエスプリ 388 一六五−一七二 一九九九

17)小林正幸、野呂文行、仲田洋子、大畠みどり 電子メール相談による不登校児および関係者支援に関する研究−一年間で新規受理した相談事例の分析− 東京学芸大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 二五 三一−四三 二〇〇一

18)小林正幸 なぜ、メールは人を感情的にするのか:Eメールの心理学 ダイヤモンド社 二〇〇一

19)林 潔 電子メールによるカウンセリングおよび援助(helping)活動について(2)  白梅学園短期大学情報教育研究 2 二三−三〇 一九九九

20)渋谷英雄 「eカウンセリング」の試行的実践の研究−有料によるインターネット上の相談臨床から 日本心理臨床学会第20回大会 二〇〇一

21)渋谷英雄 電子メールによるカウンセリング活動に関する諸問題−メールカウンセリングの現状と書記的な課題について 日本心理臨床学会第19回大会 二〇〇〇

22)浅沼志帆 Eメールカウンセリングの需要と課題 日本電話相談学会第13回大会 二〇〇〇

23)西澤寿樹 電子メールを使用したカウンセリングの課題 日本電話相談学会第13回大会 二〇〇〇

(こさか・もりたか 臨床心理士)