日本人間性心理学会第16回大会プログラム・発表論文集,110-111.

「個人の実存的側面とTAT物語との関係」

小坂守孝
キーワード:実存的側面・質問紙・TAT

<目的>
 1960年代以降、複数の研究者によって質問紙による実存的側面の測定が行われ、 そのうち幾つかについては信頼性も確立している。だが妥当性に関しては精神健康等の基準との関連における検証が多い。実存的側面そのものの妥当性に関する検証には質問紙以外による実存的側面の測定も必要と思われる。その方法の一つとして投影法が考えられる。特にTATはより日常生活における被験者の心の動きを反映しやすいと考えられる。そして「TAT物語というイマジネーション過程と生活の場で生きていることは共に自己投企の連続」(山本,1992)であり、TATの施行場面はまさに個人の実存が問われる状況といえる。本研究では実存的側面を測定する尺度における得点傾向と、各被験者がTAT図版を見て作成した物語との関係を検討した。
<方法>
被験者 東京都内の専門学校生に対し、実存的側面の質問紙とTATを実施し、81名(男子16人、女子65人)の有効回答を得た。
質問紙 実存的側面は以下の3尺度から構成される。(a)人生の目的(PIL)テスト:佐藤(1975)による日本語版。20項目。7段階評定(1〜7点)である。(b)実存的生活意識インベントリー 高井(1994): PILが測定していない側面を測定。50項目。5段階評定(1〜5点)である。(c)勇敢さ:小坂(1993):関与が16項目・統制感と挑戦は各17項目。4段階評定(0〜3点)である。
投影法 ハーバード版のTAT図版(Murray,1943)を使用。図版1は「まさにTAT図版を前にしている被検査者のテスト状況と全く同じ構造を持った類似形態的な状況である」(山本,1992)ことから、心理テストという未知の状況に投げ込まれたときの心境が語られるであろう。また図版11は「未知なもの、不安なもの、何が出てくるかわからないこわさを感じさせるものであり、まさに自分自身未知の世界へ向かう時の姿勢と重なる」(山本,1992)。以上より、この2枚の図版は実存的側面を測定するのに適した図版と考えた。本研究では図版1と図版11と、男女共用で日常的場面に近いと思われる図版5・10を加え、OHPを用いて図版1・5・10・11の順序で1枚ずつスクリーンに写した。被験者には4枚の絵それぞれに関して、「現在何が起っていると思うか」「この話の前に何があったと思うか」「登場人物は今何を考え、どんな気持ちでいて、何を望んでいると思うか」「このあと、どのようになると思うか」について出来るだけ具体的に詳しく用紙に記入してもらった。
<結果>
 質問紙により測定された実存的側面(実存的生活意識・PIL・関与・統制感・挑戦)の各変数の中央値に基づき、被験者の中から全変数について高得点群に属ずる者10名と、低得点群に属する者11名を選択した。特に勇敢さの高低に関しては、合計得点で高低を決定せず三要素それぞれの高低に従って決定した(cf. Funk,1989)。
表1 各変数の基本統計量(N=81)
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        変数          平均    SD    中央値        相関係数(信頼性)   
                                             (1)     (2)     (3)     (4)     (5) 
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( 1)実存的生活意識   181.75  20.56  183.00  (.91)
( 2)人生の目的        98.70  14.83  100.00   .69*** (.87)
( 3)関与              54.32   8.32   56.86   .40***  .34**  (.62)
( 4)統制感            65.72   9.89   64.58   .55***  .63***  .49*** (.68)
( 5)挑戦              60.32   8.55   60.78   .59***  .60***  .41***  .71*** (.68)
( 6)年齢              18.98   3.07   ----    .03     .04    -.22*    .01    -.03
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* p<.05, ** p<.01, *** p<.001
計21名のTATにおける、「このあとどのようになると思うか」への回答:割愛

<考察>
 (「このあとどのようになると思うか」への回答について)図版1においても図版11においても、実存的側面の高得点群では困難な状況が語られている。そして図版1ではプレッシャーを受けても自分の意志で再び取り組む、失敗しても立ち直る、自分のしたことを正直に話すなど、その状況を自分自身の決意や選択によって乗り切るという物語が多く見られた。また図版11では1名が死ぬ話になっているが、その他では困難な出来事の後に成功を収めたり最終的には無事に済むという物語も見られた。
 一方低得点群では、図版1では困難を乗り切るという物語も若干あるものの、多くは自分の意志に反して練習を強制される、自分の能力を超えて見栄を張る、困難な状況にただ他人の援助を待つだけという、自己の選択が周囲に左右される物語がほとんどである。また図版11では助けられても精神的にダメージを受ける、逃げても捕まる、惑星が征服されて滅亡するなど、悲観的な物語が多い。どこかへ迷い込んで自分の力ではどうにもできないというコントロール感のなさも見られた。また、主人公を教示通りに人物に特定できず、動物を主人公にしているものも見られた。
 以上より図版1も図版11も共に個人の実存的側面を反映する可能性がある。更に多くのサンプル数が望まれるところであるが、これらの結果は物語を実存的側面より評定するための基準を作成する際に手がかりとなると思われる。(こさか もりたか)

(文献)
小坂守孝(1993)成人サンプルにおける50項目版ハーディネス尺度とPIL(purpose-in-life test)の関係. 日本性格心理学会第2回大会発表論文集,30.
Murray,H.A.(1943)Thematic Apperception Test: Manual. Cambridge,Mass.:Harvard University Press.
佐藤文子(1975)実存心理検査:PIL. 岡堂哲雄(編)心理検査学:心理アセスメントの基本. 垣内出版,323-343.
高井範子(1994)実存分析的視点による現代人の生き方意識の検討:実存的生活意識インベントリーの作成と成人に対する調査の実施. 人間性心理学研究,12,62-73.
山本和郎(1992)心理検査TATかかわり分析:ゆたかな人間理解の方法. 東京大学出版会.