日本性格心理学会第1回大会発表論文集,31(1992)

日本人大学生サンプルにおける50項目版ハーディネス尺度の因子構造

小坂守孝(慶応義塾大学大学院社会学研究科)

ハーディネス(hardiness)とは、実存心理学に立脚する「高ストレス下で健康を保つ人々が持つ性格特性」で、コミットメント・コントロール・チャレンジの3要素から構成される(Kobasa,1979)。米国ではハーディネスと健康状態に関する100以上の研究が行われているが、研究結果の比較の困難や尺度の妥当性の問題が指摘されている(小坂他,印刷中)。今回は日本人大学生サンプルを用いてハーディネスの測定に最も妥当とされる50項目版ハーディネス尺度(Personal Views Survey: Kobasa,私信)の因子構造を探った。
(方法)対象と手続き:50項目版ハーディネス尺度を日本語に翻訳し、健康状態などの質問紙と共に首都圏の2つの大学の学生男女224名に実施した(1991年6月)。そのうちの有効回答207名(男性79名、女性128名)のデータについて分析を行った。
(結果・考察)「ハーディネスとは単一の特性であり、3要素は互いに関連している」という仮説に従い、先行研究と同様にハーディネスの50項目(コミットメント16項目、コントロール・チャレンジ各17項目)について斜交回転(プロマックス法)による因子分析を実施した。因子I〜IIIの固有値は各々6.03、3.28、2.56(因子IV〜VIでは各々1.98、1.80、1.69)で、3因子の累積寄与率は23.7%であった。因子間の相関はIとIIではr=.30、IとIIIではr=.36、IIとIIIではr=.18であった。表1に各項目の因子負荷量、表2にハーディネス合計得点と3要素の内的整合性と相関係数を示す。ちなみにハーディネス得点における男女間の有意差はなかった。
今回の因子分析では、因子Iの固有値が顕著に高い上に、チャレンジ以外の要素は因子との対応にばらつきが見られ、「適度に内部相関のある3つの因子が抽出された(Maddi,1987)」とは言い難い。また内的整合性については3要素一つ一つでは高いが、ハーディネス全体としては著しく低く、ハーディネスを単一の特性と考えることには疑問が残る。そもそも「相互に関連している」ことを操作化する段階において、要素間の相関関係を想定することに問題があるのではないだろうか。むしろ3要素間の独立を認めた上で、相互の因果関係を時系列敵に捉えることが有効と思われる。
今回のサンプルは数が少なく偏りがある恐れもあるので、より大きな偏りのないサンプルで再度因子構造を探る必要がある。また、項目中の「たいてい」など回答者を惑わす表現を修正しなければならない。その上で異時点間のハーディネスの安定性についても確認する必要がある。更には年代別の安定性の差についても検討すべきである。

表1 ハーディネス尺度の因子負荷量(斜交回転;N=207)
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   項目番号・内容                                       I     II    III
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(コミットメント項目)
 1. その昔不本意ながら中断した習い事に再び取り組もうと  .     .     .
    よく考える
 8. 活発に仕事をしている自分の姿を想像できない*         .27   .     .38
11. 生活のためだけに働いている人は、たいてい上司の言う  .26   .     .
    なりだ*
14. どんなに一生懸命働いても目標には決して届かない*     .51   .     .
17. どんなに一生懸命働いても結局は上司だけが得をする*   .47   .     .
20. 最も刺激的なことは空想にふけることである*           .39   .     .
23. 自分の仕事を本当に楽しみにしている                  .     .     .53
26. 新しい自分を発見するのはとてもすばらしいことだ      .29  -.25   .34
29. 自分がどこにも属していないと思うと、欲求不満や不幸  .     .58   .
    を感じる*
32. 仕事に全力を注ごうと注ぐまいと大した差はない*       .56   .     .
38. 人生の大半を無意味なことに費やしている*             .31   .     .36
39. 自分自身の意見は実はわからないことが多い*           .     .30   .28
41. 毎日のおきまりの仕事は退屈なだけでやる気がしない*   .28   .     .
44. 自分の仕事が社会の役に立っているなどという人は信用  .42   .     .
    がおけない*
47. 「個性」というものは、自分を他人に売り込むことに    .35   .     .
    しか役にたたない*
50. 政治家は我々の生活を左右する*                       .     .     .

(コントロール項目)
 3. 先輩や上司はたいてい私の言うことに耳を傾けてくれる  .     .     .37
 4. あらかじめ計画を立てれば問題は生じないものだ        .     .     .25
 5. 自分の努力次第で、事の成り行きを変えることができる  .    -.29
 7. どんなに一生懸命やってみても自分の努力は報われない* .47   .     .
10. 他人の意見を変えることは、たとえ相手が配偶者であっ  .     .     .
    てもほどんど不可能だ*
13. 結婚して子供ができると、人生における選択の幅が少な  .27   .     .
    くなる*
16. 人生において遭遇する出来事には、たいてい何らかの    .     .    -.31
    意味がある*
19. 物事は決してうまく運ばないものなので頑張っても      .54   .     .
    無駄だ*
22. 計画をたてたらたいていはそれを実現させる自信がある  .     .     .58
25. 難しそうな問題に直面したとき、それが一人で解決でき  .     .     .46
    る問題か、それとも他の人の助けが必要な問題かを正し
    く判断することができる
28. 友人に意見を変えることは常にとても難しいことだ*     .     .25   .
31. 間違いを犯したら、それを自分の力で元通りにすること  .     .     .
    はできないだろう*
34. 問題を処理する最善の方法は、そのことについて考え    .43   .     .
    ないことだ*
35. 運動選手になる人は、もともと生まれながらに運動が    .     .     .
    得意なものである*
42. 他人が私を叱るとき、きまって正当な理由など全くない* .49   .     .
45. 自分に危害を加えようとする人を阻止することはほと    .     .     .
    んどできない
48. 仕事の上で叱られたとき、それが不当だと感じること    .33   .     .
    が多い

(チャレンジ項目)
 2. 仕事やアルバイトはバラエティに富んでいるほうが      .     .     .29
    好きだ
 6. 毎日のスケジュールがちょっとでも変わると不快だ*     .     .38   .
 9. 何をやるにも確実なことを実行するのが一番いい*       .     .48   .
12. 個人の利益よりも公共性を優先するような法律は好ま    .     .     .
    しくない*
15. いつ何が起こるかわからないので、いつも明確な基準    .31   .30   .
    を頼りにしてしまう*
18. 頭の悪い奴と話をしても無駄だ*                       .33   .     .
21. 相手の質問の意図がわからない限り、それには答えた    .     .     .
    くない*
24. 現在取り組んでいることが、何らかのことで中断され   -.38   .31   .
    てもあまり気にならない
27. 先のことを見通せる人と一緒にいるのは楽しい          .     .     .48
30. 不測の事態によって習慣が乱されると、どうしたらい    .     .62   .
    いかわからない*
33. 規則は自分を指導してくれるものなので尊重する*       .     .30   .
36. はっきりしないことや予測できないことは好きではない* .     .56   .
37. 最善を尽くすひとは社会から十分に支援を受けてしかる  .     .32   .
    べきだ*
40. 事実と密接な関係がない理論はまったく役に立たない*   .     .31   .
43. 習慣が変わると当惑してしまう*                       .     .57   .
46. 日常生活の大半はほとんど退屈だ*                     .49   .     .
49. 老人になったら必ず誰かに世話をしてもらいたい*       .     .     .
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注1)因子負荷量は.25以上を記載し、小数第3位を四捨五入した。
注2)各項目内容のあとの「*」印は、逆転項目であることを示す。

表2 ハーディネスとその3要素間の相関係数(N=207)
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                (1)    (2)    (3)    (4)
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(1)commitment  (.94)
(2)control      .61   (.91)
(3)challenge    .46    .31   (.95)
(4)hardiness    .86    .77    .77   (.50)
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注1)括弧内の数字は各尺度の内的整合性(Cronbachのα)係数。
注2)相関係数は全て0.1%有意であった。
(文献)
Kobasa,S.C.(1979). Journal of Personality and Social Psychology,37,1-11.
小坂・吉田(1992)慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要,34,43-50.
Maddi,S.R.(1987) Hardiness training at Illinois Bell Telephone. In J.P.Opatz(Ed.), Health promotion evaluation. WI:National Wellness Institute.