(日本電話相談学会第11回大会発表抄録集,36-37,1998)

電子メール相談の利用に関する予備的研究

小坂守孝

目 的

 電話相談は様々な形で広がりを見せている。その一つの方向として、ここ数年の間に普及してきたインターネットを利用した様々な相談活動があり(小坂,1998)、電話相談と同様に地域の人々が利用しやすい相談手段として今後考えていくことができると思われる。中でも、電子メールを用いた相談は幾つかの相談機関や個人によって実施されるようになってきた。
 このような新しい方法が普及するかどうかは、何よりもまずそれが利用しやすいか否かにかかっていると考えられる。例えば、インターネットを利用するにしても、個人でパソコンを買い揃えてインターネットに接続するためのサービスに加入するのはコストもかかるが、会社組織や学校組織などでインターネットに接続していて端末機もあらかじめ用意されていればより利用しやすいと思われる。
 本研究では、筆者がインターネット上に個人的に開設していたホームページ「心理援助サービス」で1995年12月より1997年6月まで受け付けていた電子メール相談を利用した人の接続環境と相談の展開との関係について一考察を加えることとする。

方 法

対象 「心理援助サービス」を利用した56名(男性35名、女性21名)から寄せられた計155通の電子メールを調査の対象とした。
手続き 利用者のパソコン環境や、相談の展開等については以下のように分類した。
(1)利用者の環境:本研究では利用者の電子メールアドレス中のドメイン名部分における、組織の種別を示す部分により判断した。インターネット接続業者と契約している利用者は個人でパソコン等の通信機器を購入し、接続業者にも契約料金を支払っている。初期にコストはかかるが、電話回線が混み合うなどの事情を除けば、その利用時間に大きな制限はないと思われる。一方、企業組織等に属する人は自分の組織でインターネット環境が用意されていると考えられ、よりインターネットを利用しやすいと考えられる。特に「学術組織」に属する大学生・大学院生は他の種別に属する人よりも自由な時間は多いものと考えられる。ただし、サーバーの稼働時間に制限がある場合なども考えられる。本研究では利用者の区分を、企業組織等、学術組織、インターネット接続業者の加入者(以下ネット加入者)の3つに分けた。
(2)相談の展開:小坂(1997)同様、本研究では「合意の上終結」「変化あり中断」「変化・情報提供」「情報提供のみ」「変化なし中断」のいずれかに分類した。「変化あり中断」と「変化・情報提供」では、前者の方がより相談が展開しており、後者に見られる変化とは主に、利用者が相談機関訪問の必要性を感じたという変化である。
(3)その他:「心理援助サービス」に寄せられた相談の内容は大きく6種類(精神医学的問題、心身症状、性格や行動上の問題、対人関係、人生目標、その他)に分かれた。

結果と考察

 利用者の半数以上が、自分でインターネット接続業者と契約を結んでいた。利用者区分ごとの利用回数の平均値には有意な差は見られなかった(Kruskal-Wallis検定: χ2=2.12, df=2,p=.35)。利用者区分ごとの相談の展開については、各カテゴリーの数が十分でないため参考程度であるが、統計的に有意な傾向が見られた(χ2=16.84, df=8, p=.03)。

                       利用者区分と相談の展開

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                 回数                    相談の展開
              ----------  ------------------------------------------
                            合意   変化  変化・  情報   変化
                            の上   あり   情報   提供   なし
  利用者区分   M   SD    終結   中断  提供   のみ  中断    計
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  企業組織等  3.10  2.51      0      0      3      4      3     10
  学術組織    2.64  1.86      4      1      0      4      2     11
  ネット加入者   2.71  2.07      6     12      1      8      8     35
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      計                     10     13      4     16     13     56  
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                                           (χ2=16.84, df=8,p=.03)


つまり、ネット加入者においては単なる情報提供に終わるものよりは展開が見られる相談が多く、終結に至るものもあったが、企業組織等の利用者では相談が展開する度合いはより少なかった。相談内容によって展開も異なる可能性はあるが、利用者の区分と相談内容との間には有意な関係は見られなかった(χ2=8.85,df=10,p=.55)ため、利用者区分と相談の展開には何らかの関連がある可能性が考えられる。

                        利用者区分と相談内容

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                  精神         性格や    
                 医学的  心身  行動上  対人   人生   
  利用者区分      問題   症状  の問題  関係   目標  その他     計
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  企業組織等        1      0      3      4      0      2       10
  学術組織          2      1      4      2      1      1       11
  ネット加入者         2      3      9     15      5      1       35
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     計             5      4     16     21      6      4       56
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                                              (χ2=8.85,df=10,p=.55)


 インターネット環境がそろっていても、大学生と社会人では時間的な余裕の点で異なっていると思われる。仕事の合間に打つ電子メールでは、じっくり考える相談ができないのではないかと考えられる。大学生ならば授業の合間に電子メールを書くことができるであろう。また、社会人であっても自分でインターネット接続業者と契約している人との相談については何らかの展開が見られるものと思われる。
今後の問題
 今回は質問紙調査を実施しておらず、詳細な利用環境は不明である。また相談経過の分類は筆者一人が行ったため、再現可能性を考慮するなら、基準について今後明確に規定する必要があると思われる。

結 論

 学校や職場にインターネットの設備がある人よりも、自宅で好きな時間にインターネットに接続できる人の方が、相談が展開する可能性がある。電子メール相談が有効な手段となるには、インターネットがいつでも利用できる環境が必要と思われる。

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(文献)
小坂守孝(1997). 電子メールにおける『心理援助サービス』の実践的研究. コミュニティ心理学研究,1(2),187-198.
小坂守孝(1998). 相談する−心の問題へのアプローチ. 現代のエスプリ,370,188-196.(特集:インターネット社会)